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妊娠30週で出産した話【妻の視点】

正常性バイアスという言葉をご存知でしょうか?

 

これは、何か危機的な状況にあっても「自分は大丈夫」と過度に危険を無視してしまうという人間の性質を表すことばです。

 

私の出産はまさにこの正常性バイアスが働いたものでした。

 

胎動がない

胎動がないと主人に話したのは1週間も経ってからのことでした。

 

初めての妊娠で、胎動がないことの重要性を全く認識できていませんでした。

せいぜい、赤ちゃんがちょっと休んでいるか、私が鈍感になっている程度のものと思っていました。

 

主人は私の話を聞き、ネットで何か調べたようで、朝になったら病院に行こうとだけ言いました。

 

翌朝、病院にて

病院は街の小さな個人病院です。

先生はエコーをチェックしたあと、静かに落ち着いた感じで言いました。

赤ちゃんが危険な状態にある、このままお腹にいては救えない、もしかしたら帝王切開になるかもしれない、ここではないもっと大きな病院で診てもらう必要があるから搬送する。

 

私は頑張らなくても落ち着いて話を聞けました。

 

というか、落ち着き過ぎていました。

帝王切開と言われても、私には起こらないだろう、大きな病院に行って検査をする程度で終わるんじゃないかと思っていました。

 

救急車に乗って

救急車が到着しても私の気持ちは変わりませんでした。

 

お腹に心電図を、腕に点滴を繋がれた私は、さらに酸素マスクやら自分の心電図や呼吸をチェックする機械やらを付けられ、大学病院へ運ばれました。

 

大学病院までは遠かったです。

1時間半ほどかかりました。

 

私は、救急車の中がどうなっているのか興味津々で、初めて中をまともに見るなぁとキョロキョロしていました。

また、何だか落ち着かない雰囲気の車内を明るくしようと思って冗談を言いました。

 

「(鼻の穴に刺された酸素マスクが)カッコ悪いよね」

 

主人は黙ったまま、同伴した看護師さんは「必要があるからつけといてね」と言い、とても冷めた対応に感じられました。

他の人と私とは事態の感じ方に明らかに温度差がありました

 

私はまだまだ検査を受けるだけのつもりでいました。

 

大学病院に到着

大学病院に到着し、赤ちゃんの心電図を見た先生が、帝王切開について説明し始めました。

私は横になったまま、搬送されたときのままの状態で、次々に渡される手術の同意書にサインをしていきました。

 

何が何だかよくわかりませんでした。

とりあえず、もう検査はないのだということは理解できました。

 

横になってサインをしながら、「キレイな字で書かないといけないな」と思っていました。まるで普段、書類に書くときのように。

  

緊急帝王切開手術

手術室に運ばれるまでの間、ずっと天井ばかりが見えていました。

 

手術室で腰に局所麻酔を打たれました。

強く押されただけのような感じで、痛みはありませんでした。

 

帝王切開が始まっても、私はまだ事態が飲み込めていません。

手術室では音楽が流れていました。

ミスターチルドレンのベストアルバムのようでした。

 

「これで思い出の曲がまたひとつ増えるのかな」

「みんな手術室でこんな音楽がかかってるなんて知らないだろうな。手術が終わったら話そうっと」

 

赤ちゃんと対面

赤ちゃんは突然顔の横に現れました。

産声もあげずに、私も麻酔が効いていた状態のため、看護師さんに言われるまで気がつきませんでした。

 

手術を受けたのだからまずは先生にお礼を言うんだよな、と思い「先生ありがとうございました」と横になったまま伝えました。

 

赤ちゃんが産声を上げていないことも異常だと感じられず

無事なものだろうと思い込んでいました。

 

後で赤ちゃんが重症仮死状態にあったことを知りました。

 

正常性バイアスの怖さ

まさか、自分が妊娠30週で、帝王切開を受けて、赤ちゃんの命が危険な状態にあって、とは思いもしませんでした。

手術を受けた後でさえ、現実感がありませんでした。

 

緊急手術になってもまだまだ「自分は、自分の赤ちゃんは大丈夫だろう」と思っていたことが今では恐ろしいです。

 

あともう少しのところで赤ちゃんは生きられなくなるところでした。

 

それなのに私は呑気に救急車で冗談を言い、同意書の字のキレイさを意識し、ミスチルを聴き。

 

事態があまりに急で、予想を遥かに上回ると人間は逆に冷静になり過ぎてしまいます。

そのことで、赤ちゃんと自分の命を危険に晒したことを反省しています。

 

赤ちゃんは、早く病院に行く判断をした主人、個人病院の先生、同伴の看護師さん、そして大学病院で執刀された先生、皆さんのおかげでなんとか救われました

 

私は何もできませんでした。

 

後から執刀医がしきりに「お母さんは頑張りましたね」と言ってくださることに違和感を覚えました。

 

赤ちゃんの命は、私1人ではとても救えなかった命です。

支えてくださった周囲の方には感謝の言葉しかありません。

 

さいごに

これが私の出産体験です。

 

これから出産される方には「自分は大丈夫」なんて過信しないで、ということを伝えたいです。

帝王切開でも何でも、起こりうる全てのことについて知識をつけ、心構えをしておいてください。

 

これからの子育てでは、「自分は、赤ちゃんは大丈夫」と思わず、危険に適度に敏感になって対応したいと思います。

 

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